手紙

遺言者が自分で手書きして作成する遺言書である、自筆証書遺言。紙とペンとハンコさえあれば作成できてしまうので、最も手軽です。しかしその分、失敗しやすいポイントがたくさんあります。今回は、そんな自筆証書遺言について解説していきます。

自筆証書遺言の基本事項

自筆証書遺言を法的に有効にするためには、基本的に以下の要件を満たす必要があります。

・遺言内容のすべてを「遺言者本人が手書き」で作成すること

・作成年月日を明記すること

・遺言者の署名と捺印があること

これらの要件が揃わない場合、遺言が無効になるリスクがあるため、慎重に進めることが求められます。

自筆証書遺言の作成手順

必要な準備

自筆証書遺言を作成する前に、いくつかの準備をしておくとスムーズです。

まず、自身の財産内容を把握するために、資産の一覧(財産目録)を作成しましょう。不動産や預貯金、株式など、遺言で分けるべき資産を具体的にリスト化することで、記載内容の漏れを防げます。また、登記簿謄本や預金通帳の写しなど、財産を証明する資料も準備しておくと良いでしょう。

さらに、遺言の受け手となる相続人についても整理が必要です。法定相続人に加え、特別に遺産を分配したい人がいる場合、その関係や住所などの情報を事前にまとめておくと、遺言作成時に役立ちます。こうした準備を通じて、遺言の内容を明確にするだけでなく、遺族間での理解を得やすい内容に仕上げることができます。

作成時の具体的な手順

自筆証書遺言の具体的な作成手順は、以下の通りです。

1. 遺言の内容を手書きで記載する

まず、遺言者自身が内容すべてを手書きで書くことが必須です。パソコンやタイプライターでの作成は無効となるため、油性のボールペンなどで丁寧に記載しましょう。


2. 日付を明記する

書いた日付を明確にすることで、遺言の有効性が確保されます。日付は「〇年〇月〇日」と具体的に記載することが求められ、単に「〇年〇月」や「〇年〇月吉日」といった表記では無効になる可能性があるため注意が必要です。もちろん、スタンプなどの使用はNGで、自分で書く必要があります。


3. 署名と捺印

最後に、遺言者本人の署名(フルネーム)と実印を捺印します。署名と印鑑があることで、遺言の真実性と本人確認が担保されます。なお、実印がない場合でも、認印であれば代用可能です。実印には印鑑登録証明書を添えるとより信頼性が増します。

4.補足

もし書き損じてしまった場合には、訂正しようとすると手間のかかる厳格な方式が必要なため、最初から書き直した方が無効になるリスクが少なくおすすめです。

また、財産目録をつける場合、財産目録だけはパソコンなどで作成して印刷したものでも有効です。ただし、必ず全ページに署名・捺印する必要があります。



これらのステップに従いながら自筆証書遺言を作成することで、法的に有効な遺言を残すことができます。

自筆証書遺言のメリットとデメリット

自筆証書遺言のメリット

自筆証書遺言のメリットには、まず、手軽に作成できることが挙げられます。公正証書遺言のように公証人を通さなくても、自分で書くことでいつでも作成が可能です。さらに、作成手数料がかからない点も魅力です。自筆証書遺言は専門家の関与が不要で、紙とペンとハンコだけで完結するため、費用を抑えたい方にも適しています。作成を急いでいる方にも向いているでしょう。

また、遺言の内容を秘密にできることもメリットといえます。公正証書遺言の場合、遺言内容を公証役場の記録に残すため一部の第三者が関わりますが、自筆証書遺言は自分だけで完結するため、内容を完全に秘密に保つことが可能です。これにより、プライバシーが守られ、誰にも知られたくない家族事情や財産分配についても安心して記載できます。

自筆証書遺言のデメリットとリスク

一方で、自筆証書遺言にはデメリットやリスクもあります。

最大のリスクは、無効になる可能性があることです。自筆証書遺言は法的な要件を満たさないと無効になるため、たとえば日付や署名の記入漏れ、内容の不明確さが原因で遺言が無効とされるケースが発生します。遺言が無効になると、せっかくの意志が反映されず、法定相続分に基づく遺産分配が行われてしまいます。さらに、配分内容が偏っていて納得しない相続人がいると、「本当に本人が書いたのか?」などと疑いがもたれ訴訟に発展する恐れもあります。

また、紛失や改ざんのリスクも考慮が必要です。自宅で保管する場合、火災や盗難のリスクがあるほか、遺族が発見できずに遺言が執行されないケースもあります。勝手に破棄される恐れもあります。

さらに、自筆証書遺言は遺族が家庭裁判所へ「検認」という手続きを申し立てることが必要となります。検認とは、遺言の偽造や改ざんを防ぐために、検認の日においての遺言の内容を明確にする手続きです。この検認を受けなければ遺言に従った手続きができません。検認の申し立てには少なくとも亡くなった方の出生から死亡までと相続人全員の戸籍謄本が必要で、書類をそろえたうえで申し立ててから検認が終わるまでには1か月前後かかります。遺族にとっては負担に感じてしまう恐れがあります。

最後に、そもそも「自分で書く」ということができないと作成できません。字が書けない、手が震えるなどの場合は、公正証書遺言の作成を検討されると良いでしょう。

メリット・デメリットをふまえた作成のポイントと注意事項

自筆証書遺言の注意点

自筆証書遺言を作成する際、特に注意が必要なポイントがいくつかあります。

まず、遺言の内容は具体的かつ明確に書くことが大切です。たとえば、財産を「子どもたちに分ける」と書くだけでは曖昧で、解釈が複数発生しやすくなります。「長男に自宅を相続させ、次男に預金を相続させる」といった具体的な指示を書くことで、誤解や争いを防ぐことができます。もし特定の人に多く財産を分ける内容とする場合は、「付言」として理由を理解を得やすいように記すか、あらかじめ相続人となる全員に理解を得ておくことを推奨します。本人が書いたことに疑いを生じさせないための工夫もあるとより万全でしょう。例えば、筆跡の例示を別途添えたり、遺言書を書いている様子を動画で残しておいたりなどが考えられます。

また、財産内容のリストを定期的に更新することも重要です。自筆証書遺言は一度作成しても、その後の財産状況の変化や家族構成の変動により内容が陳腐化することがあります。財産に変化があれば、その都度見直しや再作成を行うことが推奨されます。

見落とされがちな点としては、遺言は必ず一人で作成することが必要です。夫婦などが共同で遺言書を作成すると無効となってしまいます。遺言は遺言者の最終意思を尊重するものですから、共同で遺言することで内容が自由にできなかったり、撤回が自由にできなかったりする可能性があると良くないのです。そのため、共同遺言は法律で禁止されています。

保管方法と無効にならないための工夫

自筆証書遺言の保管方法にも工夫が必要です。遺言は封筒に入れて封をした方が良いでしょう。その際は封筒に「遺言書」という文言と氏名を最低限書いておきましょう。何の封筒かわからないと意味がないですね。自宅で保管する場合は、火災や紛失のリスクを考慮し、防水・防火性のある保管場所に置きましょう。さらに、遺族が容易に発見できるよう、信頼できる家族に遺言の存在を伝えておくことも大切です。

なお、貸金庫に保管するのはやめておきましょう。遺言者が亡くなった後、貸金庫の開扉が困難になる場合があります。

最近では、法務局の遺言書保管制度を活用する方法もあります。この制度を利用すれば、遺言書を法務局で保管し、検認手続きが不要となります。これにより、遺言の紛失や改ざんのリスクを防ぎ、より確実に遺言が実行されるようになります。ただし、遺言を実行するためには「遺言書情報証明書」の交付を請求する必要があります。


また、自筆証書遺言を法的に有効な内容にするためには、行政書士などの専門家に相談することがおすすめです。専門家のアドバイスを受けることで、自分の意志を正確に反映した遺言書を安心して作成・保管することができます。

まとめ

自筆証書遺言は、誰でも手軽に作成できる一方で、法的な要件を満たさなければ無効になってしまう可能性があります。また、内容の不備や不明瞭な表現は、相続人間のトラブルや、遺志が正しく反映されないリスクを高めてしまいます。そのため、遺言を作成する際には慎重に手続きを進めることが必要です。

行政書士などの専門家に相談することで、遺言書の法的な有効性を確保しつつ、自分の意志が正確に伝わるようサポートを受けることができます。


自筆証書遺言の作成や保管についての疑問やご相談があれば、お気軽に行政書士はらしま事務所までお問い合わせください。法律の専門家として、安心してご家族に意思を残すお手伝いをさせていただきます。