人はいつか誰もが「おひとりさま」になる可能性があります。家族や身近な人が先立つことや、頼れる人が遠くに住んでいる場合、または独身や子どもがいない状況で老後を迎えることは特別なことではありません。
そうした時に、「病気や老後にどう備えるか」「亡くなった後の手続きをどうするか」を事前に考えておくことは、自分自身のためだけでなく、周囲の人々への思いやりにもつながります。今回は、おひとりさまが未来に備えるための対策を解説し、行政書士としてサポートできる部分についてご紹介します。
1. おひとりさまが抱える不安と課題
おひとりさまが感じる不安や課題は多岐にわたります。それをいくつかのカテゴリーに分けて整理します。
(1)身の回りの整理に関する悩み
- 思い出の品や重要書類が散乱し、整理できない。
- 必要な手続きをどう進めるべきか分からない。
(2)健康や生活面の不安
- 病気や事故の際の手続き
緊急搬送後、医療機関で治療方針を決める家族がいない場合、医師が適切な治療を選べない可能性があります。事前に任意後見契約などで信頼できる代理人を指定しておき、いざという時の意思表示宣言書を作成しておくと有効です。 - 老後の生活維持
日常生活のサポートが必要になった際に、誰に助けを求めるのかを考えておく必要があります。
(3)死亡後の手続きへの不安
- 財産の分配や処分がスムーズに進むかどうか。
- 遺言書がない場合、相続人探しや相続財産の管理が困難になる。
- 死後の葬儀や遺品整理の負担が大きくなる。
2. おひとりさまができる対策
おひとりさまが行うべき具体的な対策について、より詳細に解説します。
(1) 法的手続きの整備
1.見守り契約
定期的に専門家が本人と面会し、生活や健康の状況を確認する契約です。次にご紹介する任意後見契約と組み合わせることが多いです。
サービス内容
- 月1回や週1回の訪問や電話
- 必要時の生活支援
- 異変があれば速やかに家族や医療機関へ連絡
メリット
- 日常の孤独感を軽減できる。
- 万が一の際の早期対応が可能になる。
2. 任意後見契約
判断能力が低下した場合に備え、生活や財産管理を任せる代理人を事前に指定しておく契約です。公証役場で公正証書として作成され、将来の安心を確保する制度です。
特徴
- 本人の判断能力があるうちに契約を結ぶ。
- 後見人の選任は家庭裁判所の監督下で行われる。
メリット
- 自分が信頼する人を後見人として選べる。
- 財産管理だけでなく、医療・介護などの手続きといった生活面の支援も可能。
費用例
公証役場での手数料は約1万1,000円。
3. 任意代理(財産管理)契約
判断能力はあるものの、財産管理が難しかったり、体に不自由があったりする場合に、財産管理を第三者に委任する契約です。任意後見契約とは異なり、判断能力が低下していない時点から契約を発効させられます。
具体例
- 預貯金の入出金や管理
- 公共料金や税金の支払い
- 不動産の維持管理や賃貸物件の運営
メリット
- 高齢になり、細かな財産管理が難しくなった場合に負担を軽減。
- 家族が遠方に住んでいる場合でも、第三者に任せられる。
注意点
信頼できる人を選任することが大前提。信託銀行や専門家と契約するケースもあります。
4. 医療・介護等に関するいざという時の意表示宣言書(尊厳死宣言)
将来、自分の意思を伝えられなくなった場合に備え、医療や介護に関する希望を記載する文書です。法的拘束力はありませんが、家族や医療機関に対する意思表示の手段として有効です。真正を担保するため公正証書で作成することがおすすめです。
記載例
- 延命治療の希望(人工呼吸器、胃ろうなど)
- 緩和ケアや痛みの緩和についての希望
- 利用したい医療機関や施設の指定
メリット
- 自分の希望が尊重される。
- 家族や医療関係者の意思決定が容易になる。
5. 死後事務委任契約
本人が亡くなった後の事務手続きを第三者に委任する契約です。遺言書とは異なり、遺産分割ではなく、死後の具体的な手続きを依頼するものです。
内容例
- 葬儀の手配
- 公共料金や賃貸契約の解約
- 遺品整理の依頼
- 銀行口座の解約
メリット
- 遺族がいない場合や、遺族に負担をかけたくない場合に有効。
- 信頼できる専門家が確実に手続きを進めます。
6. 遺言書の作成
遺言書は、自分が亡くなった後に財産をどう分けるかを明確にするための文書です。遺言書を作成しておくことで、相続人同士のトラブルを防ぎ、自分の意思を確実に反映させることができます。
遺言書には以下の種類があります:
- 自筆証書遺言
自分で全文を手書きして作成する遺言書。費用がかからない手軽さがありますが、形式に不備があると無効になるリスクがあります。
ポイント: 2020年から法務局で保管できる「遺言書保管制度」が始まり、紛失や改ざんのリスクを軽減できます。 - 公正証書遺言
公証役場で公証人が作成する遺言書。専門家が関与するため法的に確実であり、おひとりさまに特におすすめです。公証人と証人2人の立会いが必要です。
費用例: 財産額に応じて公証人の手数料が異なります(例:財産額5,000万円の場合、約2.3万円程度の手数料)。 - 秘密証書遺言
内容を秘密にしながら法的効力を持たせる遺言書。公証人が関与しますが、実際はあまり利用されていません。
遺言書作成のメリット
- 財産の分配を自由に決められる。
- 遺言執行者を指定しておくことで手続きが円滑になる。
- 法定相続人以外(例:友人、施設等)にも財産を分けることが可能。
このように、各手続きにはそれぞれの特徴とメリットがあります。生前対策をしっかり整えておくことで、将来の不安を軽減し、自分らしい生活を続ける基盤が作れます。必要に応じて、それぞれの制度を組み合わせることが大切です。また、これらの対策は判断能力があるうちでないと行えません。早めの取り組みが必要です。
(2) 身の回りの整理
1.エンディングノートの作成
自分の意思や希望を自由に記載できるツールです。法的効力はありませんが、本人の意思を伝える重要な手段です。以下の内容を盛り込むと効果的です。
- 重要な連絡先一覧(家族・友人・行政書士など)
- 財産のリスト(不動産、預貯金、保険、負債など)
- 死亡後の希望(葬儀の形式や遺品整理の方法)
2.不要品や財産の整理
不要になったものを少しずつ片付ける「生前整理」。これにより、すっきり暮らしやすくなり、のちに遺された人の負担を減らすこともできます。
3.デジタル財産の整理
SNSアカウントやクラウドデータなどのデジタル財産を整理し、管理情報を信頼できる人に伝える方法を準備しておきます。
3. 行政書士ができるサポート
- 法的文書の作成支援
遺言書や意思表示宣言書、任意後見契約などの各種契約書の作成をサポートします。行政書士は法的効力を確保しつつ、依頼者の意思を反映する書類を作成します。 - エンディングノートの書き方アドバイス
記載すべき項目のアドバイスや、ノートを活用した生前整理の進め方をサポートします。デジタル財産についての記載も支援いたします。 - 手続きの窓口としての役割
葬儀社、遺品整理業者、弁護士など必要な専門家と連携し、依頼者に合った解決方法を提案します。 - 相談の初期窓口
「どこから始めれば良いか分からない」といった相談に対し、最適なプランを提案します。
まとめ
「誰でもいつかはおひとりさまになる可能性がある」という意識を持ち、早めの準備をすることで、安心感を得ることができます。行政書士は、法的手続きや書類作成を通じて、おひとりさまの不安解消に力を尽くします。また、今回紹介した対策はおひとりさまでなくとも有用です。
まずは、お気軽に行政書士はらしま事務所までご相談ください。あなたの将来の安心を一緒に作り上げていきましょう。